丸山 宏『近代日本公園史の研究』

近代日本公園史の研究

近代日本公園史の研究

公園成立の流れを知るにはまずはこの本がいい。公園が、近代以降いかにして多様な「場」を生産する工場として機能してきたかが描かれている。また、工業化に伴う都市問題を背景とした欧米の文脈と、地租改正を背景にした日本の文脈との差異は重要である。しかし、筆者の述べる「私的所有侵害を認める例外としての公共空間」という単純な図式では捨象される部分が大きい。公園というのは、近隣の資産価値決定に寄与する要因になる。例えば、「みんなのものである公園をホームレスが私的に占拠するのはおかしい」という公共性に依拠したホームレス排除は、実は「汚い人のいない公園を持つ快適なコミュニティーに住みたい」という私的権利の要求によるかもしれない。そこでは、公/私ではなく私/私を巡る、どのような私的権利を優先させるべきかという議論が重要になってくるのではないか。D. ハーヴェイの議論にもつながるかもしれないが、公共空間と私的空間との相補性を見逃すべきではない。

他にもあったけど、延滞しすぎてバタバタ返却したけん、忘れた。

【引用】

近代以前、美術は芸能として個々人がたしなみ、あるいは教養として身につけ、自己のものにすることが理想とされていたが、「今はそれを離れて、各人をマッスとして、それに共通に与へられる、『公共』美術となった」と。—p. 9(「」内は長谷川如是閑

公共空間の創設は、私的行為を相対化させ、平準化させる機能を発揮した。すでに述べてきたように"公園"という公共空間の創設が都市に与えたインパクトは、為政者によって”公共”の名のもとにつくられたものであっても、それが社会化する過程で多様な展開を見せたことは留意されなければならない。公園が公共空間として日常的な、あるいは政治的な、また啓蒙的な存在として、多様な"場"を提供してきたのは近大都市文化の特色のひとつといえよう。—p. 10

土地を租税の対象とする以上、その属性を地目によって分類することは必然であった。—p. 21

地所名称区別により土地は皇宮地・神地・官庁地・官用地・官有地・公有地・私有地・除租地の八種目に区分され、地券発行の有無、地租・区入費(地方税—丸山注)負担の有無などが明示された。—p. 26

「公園地」は官有地に含まれた。—p. 26

日本においては欧米と異なり都市構造の改変にともなって法制化がなされたものではない。それはすでに述べたように地租改正を射程にした土地政策とかかわるものである。—p. 47

近代的な土地制度はその所有権を絶対のものとみなすことにより成り立っているわけであるが、唯一その例外として公共の利益のためには私有財産の侵害を認めているのが、いわゆる公用収用の制度である。—p. 163

市域拡張にともない、土地区画整理が励行される一方で、その代償に生産緑地である都市近郊の農地を減少させたことも事実である。図式的にいえば地主階級は土地区画整理を機に土地を商品化の対象とし、一方で小作人は彼らの労働の場を奪われることを意味する。—p. 216

公園留保取得を可能にした土地区画整理は、制度的には農村発展を目的とした耕地整理法を準用することによりはじまり、結果的には"耕地"を消滅させ、逆に都市側の論理を展開したものとなった。—p. 217

明治二十九(一八九六)年の公園稟申にある「衆人娯楽ノ為メ遊歩ノ場所ニ乏シキヲ以テ」とは通過客を園部に降ろし、対流させるための観光施設の必要性を述べたものである。園部城址の公園化はそれを具現したものであった。しかも郡役所、公会堂、裁判所などが集中している地区において、船井郡第一の都会、園部の"顔"としての公園設置は必要条件であったといえる。—p. 240