イタロ・カルヴィーノ『見えない都市』
- 作者: イタロカルヴィーノ,Italo Calvino,米川良夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2003/07/01
- メディア: 文庫
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偶然と風がその雲に与える形のなかに、人ははやくもつぎつぎと形象を読みとることに夢中でございます。帆舟だ、手だ、象だ……と。—p. 22
遠い都会の見も知らぬ街並に迷いこんでゆけばゆくほど、そこにたどりつくまでに通り抜けて来たほかの都会がますますよく理解できるようになって来ており、今では数々の旅の道すじをさかのぼり、こうして船出して来た港、少年時代の馴染みの場所、家の周囲、幼いころに走りまわったヴェネツィアの辻の広場を知ることも学んで来ているのだ—p. 37-38
新しい都市につくたびに旅人は、すでにあったことさえ忘れていた自分の過去をまた一つ発見する。もはや自分ではなくなっている、あるいはもう自分の所有ではなくなっているものの違和感が、所有されざる異郷の土地の入口で旅人を待ち受けている。—p. 38-39
「思い出のなかの姿というものは、一たび言葉によって定着されるや、消えてなくなるものでございます」—p. 112-113
物語を支配するものは声ではございません、耳でございます—p. 175
もしも地獄が一つでも存在するものでございますなら、それはすでに今ここに存在しているもの、われわれが毎日そこに住んでおり、またわれわれがともにいることによって形づくっているこの地獄でございます。これに苦しまずにいる方法は二つございます。第一のものは多くの人々には容易いものでございます、すなわち地獄を受け容れその一部となってそれが目に入らなくなるようになることでございます。第二は危険なものであり不断の注意と明敏さを要求致します。すなわち地獄のただ中にあってなおだれが、また何が地獄ではないか努めて見分けられるようになり、それを永続させ、それに拡がりを与えることができるようになることでございます—p. 215